志賀直哉の初期作品の表現論的考察

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2021年10月25日00:48:38 评论

志賀直哉の初期作品の表現論的考察
――視点の配賦と叙述法とをてがかりとして――

目次
序章 研究概要
第1節 研究課題
第2節 研究対象
第1項 研究対象
第2項 分析対象とした作品の概要とその事由
第3節 研究方法

第1章 先行研究
第1節 志賀直哉の先行研究
第2節 視点論の先行研究
第3節 叙述分析の先行研究

第2章 初期作品の分析と考察
第1節 『或る朝』における視点の配賦と叙述法
第1項 『或る朝』の先行研究
第2項 『或る朝』における場面構成
第3項 叙述の分類分析の項目
第4項 『或る朝』の叙述の分類分析による考察
第5項 『或る朝』における特徴的な叙述についての考察
第6項 『或る朝』における視点の配賦と叙述法
第2節 『網走まで』における視点の配賦と叙述法
第1項 『網走まで』の先行研究
第2項 『網走まで』における場面構成
第3項 叙述の分類分析の項目
第4項 『網走まで』の叙述の分類分析による考察
第5節 『網走まで』における特徴的な叙述についての考察
第6項 『網走まで』における視点の配賦と叙述法
第3節 『剃刀』における視点の配賦と叙述法
第1項 『剃刀』の先行研究
第2項 『剃刀』における場面構成
第3項 叙述の分類分析の項目
第4項 『剃刀』の叙述の分類分析による考察
第5項 『剃刀』における特徴的な叙述についての考察
第6項 『剃刀』における視点の配賦と叙述法

第3章 三つの初期作品の比較考察
第1節 三つの初期作品における視点の配賦の比較
第1項 三つの初期作品における視点の配賦の差異点
第2項 三つの初期作品における視点の配賦の共通点
第2節 三つの初期作品における叙述法の比較
第1項 三つの初期作品における叙述法の差異点
第2項 三つの初期作品における叙述法の共通点

終章 結論

おわりに

参考文献

このページについて

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序章 研究概要
第1節 研究課題
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本研究は、志賀直哉の初期作品における文章表現の特徴を明らかにすることを目的とする。具体的な作品について、そのひとつひとつの叙述を細かく分析し、その視点の配賦と叙述法に着目することで、志賀直哉の初期作品の文章表現特性を考える。
視点の配賦と叙述法とは、別々の問題ではない。どこから(あるいは誰から)見ているのか、どこを(誰を)見ているのか、どのように見ているのか(あるいは見ようとしているのか)といった、作品においてどのように視点が配賦されているのか、という問題と、どのように叙述するか(あるいはしないのか)といったことと別々に切り離して問うべき問題ではない。視点の配賦と叙述法とを関連させて考えることで、より立体的で精確な分析・考察が可能となると考える。
志賀直哉の文章表現を考える際、その変化や変容といった通時的な差異点・共通点ではなく、多種多様な作品を扱うことにより、共時的な差異点・共通点に着目する。ある程度の限定された時期の作品を複数分析・考察することによって、初期における志賀直哉の文章表現特性を明らかにする。
視点の配賦と叙述法とに着目し、志賀直哉の文章表現特性を明らかにすることは、単に表現論研究や文学研究、志賀直哉研究だけの問題ではない。国語教育の場において、本研究で対象とする初期作品や、志賀直哉の作品を教材としてもちいる場合の基礎的な研究にもなろう。

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第2節 研究対象
第1項 研究対象
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本研究の研究対象は、志賀直哉の初期作品とする。「初期作品」とは、大正3年(1914年)以前に発表された作品群を指すものとする。志賀直哉は、『児を盗む話』を大正3年4月に『白樺』第5巻第4号に発表後、おおよそ3年間作品を発表しなかった。よって、『児を盗む話』までに発表された作品を「初期作品」として、それ以後の作品と区別して扱うことにする。
初期作品には、犯罪を題材にした作品や、直哉自身の体験や経験を題材にした作品など、実験的で多様な作品が数多く発表されている。そのため、作品の共時的な共通性・差異性をみるには適した作品群であると考えた。分析対象とするのは、具体的には下の三つの作品(発表年月)である。

『或る朝』 (発表=大正7年3月)
『網走まで』 (発表=明治43年4月)
『剃刀』 (発表=明治43年6月)

分析・考察の対象としたこれら三つの作品についての成立に関する概要と、対象とした事由については、次に説明する。
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第2項 対象とした作品の概要とその事由
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第2項では、研究対象とする各作品の成立に関する概要と、志賀直哉自身の作品に対する言及を挙げている。執筆、成立に関するものは、『志賀直哉全集第一巻』(岩波書店1998年)によった。志賀直哉の言及は、昭和3年6月に九巻本全集の巻末に「創作余談」として収録されたものの中から、各作品の部分を引用している。
『或る朝』
【発表】

『中央文学』大正7年3月号(1918年)
【執筆】

明治41年1月14日 祖父の法事の翌日(1908年)
【「創作余談」における『或る朝』への言及】
「或る朝」は二十七歳の正月十三日亡祖父の三回忌の午後、その朝の出来事を書いたもので、これを私の処女作といつてもいいかも知れない。私はそれまでも小説を始終書かうとしてゐたが、一度もまとまらなかつた。筋は出来てゐても、書くとものにならない。一気に書くと骨ばかりの荒つぽいものになり、ゆつくり書くと瑣末な事柄に筆が走り、まとまらなかつた。所が、「或る朝」は内容も簡単なものではあるが、案外楽に筆が走り、初めて小説が書けたといふやうな気がした。それが二十七歳の時だから、今思へば遅れてゐたものだ。こんなものから多少書く要領が分かつて来た。
(昭和3年6月に九巻本全集の巻末に「創作余談」として収録されたもの。
引用は『志賀直哉全集 第六巻』(岩波書店1999年5月))

以上のように、『或る朝』が発表されたのは大正7年であり、本研究で「初期作品」と定めた時期より後に発表された作品である。つまり、『或る朝』は、初めて執筆されたときから発表されるに至るまで、10年以上の隔たりがあることになる。さらに、執筆された段階の草稿「非小説、祖母」が発見されていないため、現行の『或る朝』との差異を対照することもできない。そのため、志賀直哉自身が語るように「処女作」として位置づけるには慎重になる必要がある。推測の域は出ないが、草稿「非小説、祖母」の執筆と、完成稿『或る朝』の発表との時間的隔たりを考えると、おそらく草稿段階の「非小説、祖母」と、後に発表された『或る朝』とは、大きく違っている可能性が高いと考えられる。
しかし、ここで敢えて「初期作品」として『或る朝』を選んだのは、やはり自身が「処女作」として数えるほど、作家・志賀直哉にとって大きな意味を持っているためである。視点の配賦や叙述法を考えるうえで、「初めて小説が書けたといふやうな気がした」と言っている意味は小さくない。「初期作品」として安易に含めてしまうことはできないが、逆に「初期作品」を対象とする以上、やはり無視できない作品である。よって、この『或る朝』は例外的に「初期作品」として扱うことにした。
なお、上の「創作余談」には、「二十七歳の正月十三日亡祖父の三回忌の午後、その朝の出来事を書いたもの」とあるが、志賀直哉の日記によれば、二十六歳の時であり、『或る朝』の前身である「非小説、祖母」が書かれたのは、法事の翌日であることが記されている。よって、これは志賀直哉の勘違いである可能性が高い。
『或る朝』の内容について言えば、この作品は、「信太郎」を中心とした三人称小説である。また、上の引用にもあるとおり、この作品は志賀直哉が実際に体験した出来事を基にした作品である。

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